国庫帰属・相続放棄・売却の費用と条件を、法務省の資料で比べます。
公開 2026年10月15日
相続した「いらない土地」を手放す方法は、主に3つです。国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度、相続放棄、売却や譲渡。土地だけを手放せるのは国庫帰属と売却で、相続放棄は預貯金や借金を含む全部の財産を手放す手続きです。
国庫帰属制度は、建物が残っている土地や境界が明らかでない土地は申請できません。審査手数料は1筆14,000円、承認後の負担金は原則20万円(土地の種類と面積で増える場合あり)。買い手や引き受け手が見つかるなら、費用のかからない売却・譲渡が先です。
違いは「何を手放すか」「期限があるか」「誰に渡すか」です。
| 相続土地国庫帰属制度 | 相続放棄 | 売却・譲渡 | |
|---|---|---|---|
| 手放すもの | 相続した土地だけ(1筆ごと) | 預貯金・借金を含む相続財産すべて | 土地・建物を選んで手放せる |
| 期限 | なし(制度開始前の相続も対象) | 相続開始を知った時から3か月以内 | なし |
| 主な費用 | 審査手数料1筆14,000円+負担金(原則20万円) | 収入印紙800円(1人につき)+郵便切手 | 仲介なら仲介手数料、買取なら手数料なし |
| 期間の目安 | 標準処理期間8か月 | 公表された目安は確認できず | 買主しだい |
| 手続き先 | 土地がある都道府県の法務局(本局) | 亡くなった人の最後の住所地の家庭裁判所 | 不動産会社・隣地所有者・空き家バンクなど |
| 対象外・注意 | 建物がある土地、境界が不明な土地など | 土地だけを選んで放棄はできない | 買主がつかなければ進まない |
| 向く人 | 建物がなく、売っても買い手がつかない土地を持つ人 | 借金が多いなど、相続そのものを引き継がない人 | 少しでも値段がつく、または引き受け手がいる人 |
法務省も、相続放棄は「全ての相続財産を放棄することになる」「申述期間に制限がある」と整理しています(法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法の制定」2026年4月版)。土地だけを手放したい場合の選択肢は、国庫帰属か売却・譲渡です。
相続土地国庫帰属制度は、令和5年(2023年)4月27日に始まりました。相続または遺贈(相続人への遺贈に限る)で土地を取得した人が、法務大臣の承認を受けて土地を国に引き渡す制度です(法務省「相続土地国庫帰属制度について」)。相続登記がまだでも申請できますが、戸籍などで所有者であることを示す書類が必要です。
どんな土地でも引き取ってもらえるわけではありません。法律は、そもそも申請できない土地(却下)と、審査で承認されない土地(不承認)を分けています(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)。
申請できない土地(法2条3項)
承認されない土地(法5条1項)
建物が残っている実家の土地は、原則として建物を取り壊してから申請することになります。物置程度の小さな小屋は建物に当たらない場合もあり、その場合は工作物として判断されます(法務省「よくある質問」)。共有の土地は、共有者全員で申請しなければなりません。
審査手数料は土地1筆あたり14,000円です。申請書に収入印紙を貼って納めます。申請を取り下げた場合や、却下・不承認になった場合も返還されません。
負担金は、承認を受けたあとに納めるお金です。国有地の種目ごとに、管理に要する10年分の標準的な費用を考慮して政令で決められています(法10条1項)。宅地・農地・森林以外の土地や、下の区域外の宅地・農地は20万円。次の土地は面積に応じて計算します(同法施行令5条1項)。
| 例 | 施行令の算定式 | 負担金 |
|---|---|---|
| 市街化区域内の宅地 200㎡ | 地積×2,450円+30万3,000円(100㎡超200㎡以下) | 79万3,000円 |
| 農用地区域内の農地 1,000㎡ | 地積×810円+31万8,000円(500㎡超1,000㎡以下) | 112万8,000円 |
| 森林 3,000㎡ | 地積×17円+24万8,000円(1,500㎡超3,000㎡以下) | 29万9,000円 |
| 上記以外の土地(例:市街化調整区域の宅地) | 面積にかかわらず定額 | 20万円 |
計算結果に千円未満の端数があれば切り捨てます。隣り合う同じ種目の土地は、申し出れば1つの土地とみなして負担金を計算できます(法務省「負担金の算定」)。
負担金は、額の通知を受けた日から30日以内に納めなければ、承認の効力がなくなります(法10条3項)。その場合も審査手数料は戻りません。
出典:e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令」/法務省「相続土地国庫帰属制度のご案内」
申請先は、土地がある都道府県の法務局・地方法務局の本局です。支局・出張所では受け付けていません。窓口に持参するか郵送します。
標準処理期間は8か月とされています。事案によっては、これを超えることもあります(法務省「よくある質問」)。
申請前の相談は事前予約制で、対面・電話・ウェブの3つの方法があります。1回30分です(法務省「相談のご案内」)。3県の窓口は次のとおりです。
土地が遠方にある場合は、住まいの近くの法務局でも相談できます。
法務省は申請・帰属の件数を公表しています。令和8年(2026年)8月31日現在の速報値です。
| 項目 | 件数 | 内訳 |
|---|---|---|
| 申請件数 | 5,997件 | 田・畑2,335件/宅地2,091件/山林902件/その他669件 |
| 帰属件数 | 3,119件 | 宅地1,164件/農用地989件/森林203件/その他763件 |
| 却下件数 | 85件 | 添付書類の提出がなかった37件、境界が明らかでない23件、現に通路に使われている22件など |
| 不承認件数 | 100件 | 地上に管理・処分を妨げる物がある46件、国による追加整備が必要な森林37件など |
| 取下げ件数 | 1,139件 | 有効活用の見込みが生じた586件、却下・不承認と判明した405件、その他148件 |
出典:法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年8月31日現在・速報値)。却下・不承認は1件に複数の理由がある場合があります。
審査中の申請もあるため、「承認率」を単純に計算することはできません。
目を引くのは取下げの内訳です。「有効活用の見込みが生じた」586件の例として、法務省は「隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった」「自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した」などを挙げています。申請をきっかけに、引き受け手が見つかることもあるということです。
相続放棄をすると、その相続に関しては初めから相続人でなかったものとみなされます(民法939条)。プラスの財産もマイナスの財産も、すべて引き継ぎません。
放棄したあとの管理の義務も確認しておきましょう。2023年(令和5年)4月1日施行の改正で、民法940条1項は次の形になりました。
※「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」(民法940条1項)
改正前は、放棄した人が「相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで」管理を続ける、という書き方でした。改正後は、放棄の時に現に占有している財産について、相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存する義務、と範囲が示されています。実家に住んでいた、鍵を持って管理していたなど、どんな場合が「現に占有」に当たるかは個別の判断です。
相続放棄をするかどうかは、借金の有無を含めた財産全体で決めることです。いらない土地が1つあるという理由だけで選ぶ方法ではありません。判断に迷う場合は、司法書士・弁護士・税理士にご確認ください。
国庫帰属は、承認されても負担金がかかります。値段がつく土地、引き受け手がいる土地なら、先に売却・譲渡を検討するほうが出費は少なく済みます。
① 隣地の所有者
隣の土地と一体にすると使い道が広がる場合があります。国庫帰属の取下げ理由に「隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった」が挙がっているとおり、声をかける価値はあります。
② 不動産会社(仲介・買取)
仲介は買主を探してもらう方法、買取は不動産会社が買主になる方法です。古い建物が残っている土地や、形がいびつな土地は、仲介では買主がつきにくいことがあります。違いは仲介と買取の違いにまとめています。まずAI査定で、仲介と買取それぞれの金額を見ておくと判断しやすくなります。
③ 自治体の空き家・空き地バンク
自治体が把握している空き家・空き地の情報を載せる仕組みです。国土交通省は、各自治体の情報を横断して検索できる「全国版空き家・空き地バンク」の構築・運営を支援しています(国土交通省「空き家・空き地バンク総合情報ページ」)。登録の条件や方法は自治体ごとに違います。
農地や市街化調整区域の土地は、売る相手や使い道に法律上の制限があります。→ 農地を売るには/市街化調整区域の土地
※どの方法を選ぶ場合も、相続した土地は相続登記が必要です。2024年4月1日から義務化されています。→ 相続登記の義務化
「売れないと思っていた土地にも、買取なら値段がつく」ことはあります。国庫帰属や放棄を考える前に、仲介で売った場合と買取の場合、2つの金額を並べて確かめられます。
当社は宅地建物取引業者ではありません。売買の媒介または代理は、当社の提携する宅地建物取引業者が行います。AI査定の結果は公開データにもとづく概算であり、売買価格を保証するものではありません。
Q建物が建っている土地でも国庫帰属制度を申請できますか?
できません。建物がある土地は申請の段階で却下されます。登記されていない建物でも、現に建っていれば同じです。原則として建物を取り壊してから申請することになります。物置程度の小さな小屋は建物に当たらない場合もあります。
Q国庫帰属制度の負担金はいくらですか?
原則20万円です。ただし市街化区域内(または用途地域内)の宅地、市街化区域・用途地域・農用地区域内などの農地、森林は面積に応じて計算します。たとえば市街化区域内の宅地200㎡なら79万3,000円です。このほか、申請時に審査手数料として1筆14,000円がかかります。
Q相続放棄をすれば、土地の管理からすぐに解放されますか?
そうとは限りません。2023年4月1日施行の改正民法940条により、放棄の時に相続財産を現に占有している人は、相続人や相続財産清算人に引き渡すまでの間、自己の財産と同一の注意で保存する義務があります。
Q制度が始まる前に相続した土地も国庫帰属の対象ですか?
対象です。法務省は、令和5年4月27日以前に相続した土地も対象になると案内しています。相続放棄のような3か月の期限もありません。
Q共有で相続した土地は国庫帰属を申請できますか?
共有者全員で申請すれば可能です。1人でも同意しない共有者がいると申請できません。連絡が取れない共有者がいる場合は、弁護士などの専門家への相談が案内されています。
出典:法務省「相続土地国庫帰属制度について」/法務省「相続土地国庫帰属制度の申請の手引き」/法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」/法務省「相続土地国庫帰属制度に関するよくある質問」/法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年8月31日現在)/法務省「相続土地国庫帰属制度の相談のご案内」/法務省「相続土地国庫帰属制度のご案内」/法務省「所有者不明土地の解消に向けて 令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法の制定」(2026年4月版)/e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」/e-Gov法令検索「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令」/e-Gov法令検索「民法」/裁判所「相続の放棄の申述」/国土交通省「空き家・空き地バンク総合情報ページ」/名古屋法務局「相続土地国庫帰属制度」/津地方法務局「相続土地国庫帰属制度」/岐阜地方法務局「相続土地国庫帰属制度について」
国庫帰属や放棄を考える前に。仲介と買取、2つの金額を並べて確かめられます。
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